地域活動のアンケート調査を効率化!無料OSS LimeSurvey活用事例
はじめに
地域における活動を進める上で、参加者の声を聞いたり、ニーズを把握したりすることは非常に重要です。アンケート調査は、こうした声やニーズを収集するための有効な手段の一つですが、アンケートの作成から配布、そして集計・分析まで、多くの手間やコストがかかることも少なくありません。特に、予算や専門知識が限られている地域団体やNPOにとって、効率的かつ効果的なアンケート調査の実施は一つの課題となり得ます。
本記事では、こうした課題に対して、オープンソースソフトウェア(OSS)である「LimeSurvey」を活用し、地域活動におけるアンケート調査を効率化、高度化した事例をご紹介します。
背景・課題
ある地域の市民活動団体は、地域住民向けのイベントや講座を定期的に開催していました。活動の企画や改善のために、参加後の満足度調査や次回の企画に向けたニーズ調査をアンケート形式で実施していましたが、いくつかの課題を抱えていました。
まず、アンケートの作成には、無料のオンラインフォームサービスを利用していましたが、デザインの自由度が限られていたり、複雑な質問形式に対応できなかったりする場合がありました。また、無料サービスでは集計機能が限定的で、クロス集計(例えば、年齢層別の満足度などを分析すること)のような詳細な分析を行うためには、データを手作業で集計し直す必要があり、多大な時間を要していました。さらに、参加者の個人情報を含む可能性のあるデータを外部のサービスに預けることへの懸念もありました。
これらの課題から、アンケート調査の実施が負担となり、十分に活用しきれていない状況でした。
導入したOSS/技術
この課題を解決するために、団体が着目したのがOSSのアンケートシステム「LimeSurvey」でした。LimeSurveyは、ウェブブラウザ上で動作する高機能なアンケート作成・実施・集計ツールです。
LimeSurveyを選んだ理由は、主に以下の点でした。
- 無料かつオープンソースであること: ライセンス費用がかからず、予算が限られた団体にとって導入しやすい選択肢でした。
- 機能が豊富であること: 無料サービスでは難しかった多様な質問形式、複雑な条件分岐(回答によって次に表示される質問を変える機能)などが利用でき、目的に合わせた柔軟なアンケート設計が可能でした。
- データのエクスポートや分析機能: 集計結果を様々な形式(CSV, Excelなど)でエクスポートできるほか、システム内で基本的な集計や分析を行う機能も備わっていました。
- データの管理権: 自身でサーバーを用意するか、信頼できるホスティングサービスを利用することで、アンケートデータや回答データを自身で管理できるため、プライバシーに関する懸念を軽減できました。
導入形態としては、団体自身でサーバーを構築・運用する技術的リソースがなかったため、LimeSurveyのホスティングサービスを提供している企業を利用することにしました。これにより、サーバー構築の手間なく、比較的低コストで高機能なLimeSurveyを利用開始できました。
具体的な活用方法
LimeSurvey導入後、この団体はアンケート調査を以下の通り活用するようになりました。
- 多様な質問形式の活用: これまで難しかった複数選択肢、スケール(例: 5段階評価)、自由記述に加えて、特定の回答者のみに表示される補足質問(条件分岐機能)などを組み合わせることで、より詳細かつ目的に合った情報を収集できるようになりました。例えば、イベント参加満足度で「不満」と答えた方に、その理由を具体的に記述してもらうような設定が可能になりました。
- オンラインでの配布: 作成したアンケートは、専用のURLやQRコードを生成して配布しました。イベント会場での掲示、団体のウェブサイト、メールマガジン、SNSなどを通じて参加者に簡単にアクセスしてもらうことができました。
- 匿名・記名回答の使い分け: 意見収集には匿名回答を基本としつつ、ボランティア登録など個人情報の提供が必要なアンケートでは記名回答とするなど、アンケートの目的に合わせて設定を柔軟に変更しました。
- リアルタイムな集計・分析: 回答が送信されると同時にシステム上で集計が始まり、回答状況や集計結果をリアルタイムで確認できるようになりました。グラフ表示機能により、結果を視覚的に把握しやすくなりました。
- 詳細なデータ分析: システム内の基本分析機能に加えて、回答データをCSV形式でエクスポートし、表計算ソフトなどでクロス集計やさらに詳細な分析を行うことで、参加者の属性と意見の関連性などを深く理解できるようになりました。
導入効果・メリット
LimeSurveyの導入により、この団体は以下のような具体的な効果やメリットを得ることができました。
- アンケート作成・集計時間の削減: これまで手作業で行っていた集計作業がほぼ自動化されたため、アンケート調査にかかる総時間が大幅に削減されました。これにより、他の活動により多くの時間を充てることが可能になりました。
- 参加者の声の深い理解: 多様な質問形式と詳細な分析機能により、これまでは分からなかった参加者の具体的な意見や潜在的なニーズをより深く把握できるようになりました。
- 活動改善への貢献: 収集・分析したデータを基に、イベント内容の見直しや新しい企画の立案をより根拠に基づいて行えるようになり、活動の質的向上につながりました。
- コスト効率の向上: 高機能なシステムを無料(またはホスティング利用による低コスト)で利用できたため、予算を効率的に活用できました。
- データの安心管理: データの管理場所を自身でコントロールできる安心感が得られました。
導入のポイント・注意点
この事例から、地域団体やNPOがLimeSurveyのような高機能OSSを導入する上で参考になるポイントや注意点がいくつか挙げられます。
- 導入形態の検討: LimeSurveyを自身でサーバーにインストールして運用するのは、ある程度の技術知識が必要です。技術スタッフがいない場合は、比較的安価なホスティングサービスを利用するか、無料トライアルなどで操作感を試してみるのが現実的です。
- 学習コスト: 多機能であるがゆえに、使い始めるまでに多少の学習時間が必要です。公式ドキュメントやオンライン上の情報を参考にしたり、他の利用者の事例を参考にしたりすることで、効率的に習得できます。
- 日本語情報の確認: OSSによっては日本語の情報やサポートが少ない場合がありますが、LimeSurveyには日本語のコミュニティやドキュメントも存在します。導入前に利用可能な情報源を確認しておくと良いでしょう。
- シンプルな開始: 最初から全ての機能を使いこなそうとせず、まずはシンプルなアンケートから作成してみることをお勧めします。慣れてきたら、条件分岐などの高度な機能に挑戦すると良いでしょう。
まとめ・展望
地域活動におけるアンケート調査は、活動の改善や地域住民との関係構築に不可欠です。OSSであるLimeSurveyは、無料でありながら商用ツールに匹敵する高機能を提供し、アンケート作成・集計の手間を大幅に削減し、より質の高いデータ収集・分析を可能にすることが本事例から明らかになりました。
この団体は、LimeSurveyの活用を通じて参加者の声を活動に反映させるサイクルを強化し、より地域に根差した活動を展開できるようになりました。予算や技術リソースが限られる地域団体やNPOにとって、LimeSurveyのような高機能なOSSは、活動の効率化と質の向上を実現するための有力な選択肢となるでしょう。今後も、他のOSSと組み合わせることで、地域活動における情報共有やデータ管理の可能性がさらに広がっていくことが期待されます。