地域活動の記録を本のように!OSS BookStackで報告書作成・共有を効率化
はじめに
地域活動において、日々の活動内容を記録し、メンバーや関係者と共有することは非常に重要です。これは、活動の振り返りや継続的な改善に役立つだけでなく、新しいメンバーへの情報提供、あるいは外部への報告にも不可欠です。しかし、これらの記録が個人のPCに scatteredしていたり、WordやPDFファイルでの共有が中心だったりすると、「あの情報どこにあったかな?」「最新版はどれ?」といった課題が生じがちです。
本記事では、オープンソースのドキュメント管理ツール「BookStack」を活用し、地域活動の活動報告書やプロジェクト記録を効率的に作成・共有する事例をご紹介します。BookStackは「棚」「本」「章」「ページ」という分かりやすい構造で情報を整理できるため、専門的な知識がなくても直感的に利用できます。
背景・課題
多くの地域NPOや市民活動団体では、以下のような情報管理や共有に関する課題を抱えています。
- 情報が scattered: 活動日誌、会議議事録、イベントの企画書や報告書などが、個々のメンバーのPCや様々なクラウドストレージに分散している。
- 共同編集の難しさ: WordやExcelファイルをメールでやり取りしながら共同編集しようとすると、バージョンの管理が煩雑になり、誰が最新の情報を持っているか分からなくなる。
- 過去の情報へのアクセス: 以前の活動報告やイベントの資料を探すのに時間がかかる、あるいは担当者が変わると見つけられなくなる。
- 新メンバーへの情報提供: 団体の歴史や過去の活動内容、運営に関するルールなどを効率的に伝える手段がない。
- 報告書作成の負担: 形式が決まった報告書を作成するために、 scatteredした情報を集め、整形するのに手間がかかる。
これらの課題は、活動の効率を低下させるだけでなく、メンバー間の情報格差を生み、活動の継続性にも影響を与えかねません。
導入したOSS/技術:BookStack
ここでご紹介するのが、オープンソースのドキュメント管理ツール「BookStack」です。BookStackは、ConfluenceのようなWikiツールと似ていますが、「棚 (Shelves)」「本 (Books)」「章 (Chapters)」「ページ (Pages)」という、より書籍に近い階層構造で情報を整理できる点が特徴です。
なぜ地域活動の記録・報告書作成にBookStackを選んだのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 直感的な構造: 「棚に本を並べ、本の中に章があり、章の中にページがある」という構造は、誰にでも理解しやすく、活動内容を自然な流れで整理できます。
- 使いやすいエディタ: WYSIWYG(見たまま編集)エディタを備えているため、Wordのように文字装飾や画像挿入などを簡単に行えます。Markdown記法での編集も可能です。
- アクセス権限管理: 誰がどの情報を閲覧・編集できるか、細かく設定できます。これは、メンバー限定の情報を扱う上で非常に重要です。
- 強力な検索機能: 蓄積された情報をキーワードで素早く検索できます。
- バージョン管理: ページの編集履歴が自動的に保存され、過去のバージョンに戻すことも可能です。
- オープンソース: ライセンス費用がかからず、自由に利用・改変できます。
具体的な活用方法
地域活動でBookStackをどのように活用できるか、具体的なシーンを想定してご紹介します。
1. 活動報告書やプロジェクト記録の作成・整理
- 「棚」を設定: 年ごとの活動記録、プロジェクトごとの報告書、運営マニュアル集など、大分類となる「棚」を作成します。
- 例: 「2023年度活動報告」「〇〇プロジェクト」「運営マニュアル」
- 「本」を作成: 各棚の中に、個別の活動報告書やプロジェクト報告書、マニュアルといった「本」を作成します。
- 例: (2023年度活動報告棚に)「4月度活動報告」「〇〇イベント実施報告書」
- 例: (〇〇プロジェクト棚に)「プロジェクト企画書」「進捗報告(月次)」「最終報告書」
- 例: (運営マニュアル棚に)「新メンバー向けガイド」「会議の進め方」
- 「章」で階層化: 長い報告書や本は、「はじめに」「活動概要」「成果」「課題」「今後の展望」といった「章」に分けて記述します。
- 「ページ」で詳細を記述: 各章の中に具体的な内容を「ページ」として記述します。WYSIWYGエディタを使って、テキストだけでなく、写真、図、表なども挿入し、分かりやすい報告書を作成できます。複数のメンバーが担当箇所を分担して編集することも可能です(※リアルタイム共同編集ではありませんが、編集中の競合検出機能があります)。
2. 会議議事録や打ち合わせメモの共有
毎回の会議議事録を「本」としてまとめ、「章」を日付、「ページ」を個別の議題や決定事項とするなど、構造を工夫することで、過去の議論や決定事項を簡単に振り返ることができます。
3. 団体の知識・ノウハウの蓄積
新しいメンバー向けのオリエンテーション資料、よくある質問とその回答、特定の作業手順などをマニュアルとしてBookStackにまとめることで、組織全体の知識レベル向上や引き継ぎのスムーズ化に繋がります。
4. 外部への情報公開(限定的利用)
BookStackはアクセス権限設定が可能です。特定の「本」や「ページ」のみをログインしていないユーザーにも公開設定にすることで、活動の一部をWebサイトのように外部に公開することもできます。ただし、本格的な情報発信にはWordPressなどのCMSの方が適しています。BookStackはあくまで内部的な情報共有・記録に主眼を置くのが現実的です。
導入効果・メリット
BookStackを地域活動に導入することで、以下のような効果が期待できます。
- 情報の一元化と整理: 活動に関するあらゆる情報が一箇所に集約され、体系的に整理されるため、「どこに何があるか分からない」という状況が改善されます。
- 検索性の向上: 強力な検索機能により、必要な情報に素早くたどり着けます。
- 報告書作成の効率化: 共同で情報を整理・編集できるため、報告書作成にかかる時間と労力を削減できます。
- 知識・ノウハウの蓄積: 過去の活動記録やマニュアルが資産として蓄積され、組織全体のレベルアップに繋がります。
- メンバー間の情報共有促進: 必要な情報に誰もがアクセスできる環境が整い、メンバー間のコミュニケーションが円滑になります。
- コスト削減: オープンソースであるため、ライセンス費用はかかりません。サーバー費用や運用にかかる人件費のみです。
ある地域団体では、BookStack導入後、会議議事録の検索にかかる時間が大幅に短縮され、過去の決定事項を迅速に確認できるようになりました。また、イベント実施報告書をBookStackで統一フォーマット化し、メンバーが分担して編集することで、報告書作成にかかる時間が従来の半分以下になったという事例もあります。
導入のポイント・注意点
BookStackの導入にあたっては、いくつかのポイントと注意点があります。
- 導入方法: BookStackはWebアプリケーションとして動作するため、サーバーが必要です。技術的な知識が限られるターゲット読者にとっては、導入が最もハードルの高い部分かもしれません。
- レンタルサーバー: 一部のレンタルサーバーでは、簡単インストール機能を提供している場合があります。
- VPS/クラウド: Dockerを利用すると比較的簡単に環境構築できますが、VPSやDocker自体の知識が必要です。
- 技術サポート: 団体の内部に技術的な支援ができるメンバーがいない場合、外部の専門家や、OSSコミュニティでの質問・情報収集が必要になります。導入代行サービスなどを検討するのも一つの方法です。
- 運用ルールの策定: 誰が「棚」「本」「章」を作成・管理するのか、どのような情報をBookStackに登録するのか、編集権限をどうするかなど、基本的な運用ルールを事前に定めておくことが、スムーズな活用の鍵となります。
- バックアップ: サーバー上のデータは定期的にバックアップを取る必要があります。万が一のサーバー障害に備え、データの損失を防ぐための重要な対策です。
- 共同編集の特性理解: BookStackは複数人が同時に同じページを編集した場合に競合を検出して通知しますが、Google Docsのようなリアルタイムでの同時共同編集機能はありません。この点を理解し、編集の際のルール(例: 編集中は他の人に声をかける)を決めると良いでしょう。
まとめ・展望
地域活動における情報共有や記録の課題は、活動の効率性や持続性に直結します。OSSのBookStackは、「棚」「本」といった分かりやすい構造で、活動報告書やプロジェクト記録、議事録、マニュアルといった様々なドキュメントを体系的に管理・共有できる優れたツールです。
導入には技術的なハードルが伴う場合もありますが、その分かりやすい構造と豊富な機能は、情報の一元化、検索性の向上、共同編集の効率化といった多くのメリットを地域活動にもたらします。BookStackを活用することで、過去の活動が「積み重ねられた知識」として活かされ、よりスムーズで効果的な地域活動の推進に繋がるでしょう。
オープンソース技術は、このように地域社会の様々な課題解決の可能性を秘めています。BookStackのようなツールが、皆さんの活動の一助となれば幸いです。