地域活動のアイデア出しや振り返りを活性化!OSS Excalidraw活用事例
はじめに
地域社会をより良くするための活動において、参加者同士の活発な意見交換や、活動の成果・課題を共有して次につなげる「振り返り」は非常に重要です。しかし、限られた時間の中で多様な意見を整理したり、オンラインでの話し合いで対面のような一体感を持ってアイデアを出し合ったりすることに難しさを感じている方もいらっしゃるかもしれません。
本稿では、このような地域活動におけるコミュニケーションや思考の整理を支援するオープンソースソフトウェア(OSS)、「Excalidraw」の活用事例をご紹介します。Excalidrawは、手書き風のシンプルなオンラインホワイトボードツールであり、技術的な専門知識が少ない方でも手軽に導入・活用できます。
地域活動におけるアイデア共有・振り返りの課題
地域の集まりや会議では、参加者から様々なアイデアや意見が出されます。これらを効率的に引き出し、整理し、全員で共有することは、活動の方向性を定める上で欠かせません。対面での会議であれば、ホワイトボードや模造紙を使って視覚的に情報を共有・整理することが一般的ですが、オンライン会議ではこれが難しくなります。画面共有だけでは一方的な情報伝達になりがちで、参加者全員が同時に書き込んで共同で思考を深めることは容易ではありませんでした。
また、イベントやプロジェクトが終わった後に、良かった点や改善点、学びを共有し、記録に残す「振り返り」も、地域活動の継続的な発展には重要です。しかし、これも形式ばってしまったり、十分な時間を取れなかったりして、効果的に行えないという課題を抱えている団体も多いのではないでしょうか。
課題解決に役立つOSS「Excalidraw」とは
これらの課題に対し、解決策の一つとして活用が期待できるのが、オープンソースのオンラインホワイトボードツール「Excalidraw」です。
Excalidrawは、ウェブブラウザ上で動作するシンプルな描画ツールです。大きな特徴は、その「手書き風」の見た目と、複数人が同時に同じ画面に書き込みができる「共同編集機能」です。インストールは不要で、インターネットに接続できる環境があればすぐに利用を開始できます。(OSSのため、ご自身でサーバーを立てて運用することも可能ですが、ここでは手軽に利用できるSaaS版であるexcalidraw.comの利用を想定して説明します。)
なぜExcalidrawが地域活動に向いているのでしょうか。第一に、そのシンプルさです。複雑な機能がなく、直感的に使えるため、パソコン操作に不慣れな方でも抵抗なく利用できます。第二に、共同編集機能です。複数の参加者がリアルタイムで同じキャンバス(描画スペース)に同時に書き込みができるため、オンライン会議中でも対面でホワイトボードを囲んでいるかのように活発な共同作業が可能です。そしてもちろん、オープンソースであるため、個人利用や小規模団体での利用であれば、費用をかけずに始めることができます。
Excalidrawの具体的な活用方法
地域活動において、Excalidrawは以下のような場面で活用できます。
会議やワークショップでのブレインストーミング
オンライン会議ツールと組み合わせて、アイデア出しの場で利用します。会議の参加者にExcalidrawの共有リンクを送るだけで、全員が同じキャンバスに同時に文字や図、矢印などを書き込むことができます。「会議のテーマ」を中心に、参加者それぞれが思いついたアイデアを自由に書き出してもらいます。付箋ツールを使えば、アイデアを整理したり、グループ分けしたりすることも容易です。手書き風の見た目が、かしこまりすぎず、自由な発想を促す雰囲気づくりにも役立ちます。
活動計画や体制図の作成
文字情報だけでは伝わりにくい活動計画や、プロジェクトに関わる人々の役割分担、組織体制などを簡単な図にして共有する場合にも役立ちます。複雑な専門ツールを使う必要はなく、基本的な図形やコネクタ(線)を組み合わせて、誰もが見てすぐに理解できるような図を作成し、情報を共有することができます。計画の変更があった場合も、オンラインで共同で修正できるため、常に最新の情報を共有しやすくなります。
プロジェクトの振り返り
活動終了後の振り返り(KPT法: Keep/Problem/Try など)を行う際に、テンプレートとして活用できます。キャンバスを区切って「良かったこと(Keep)」「問題だったこと(Problem)」「次に試したいこと(Try)」といった項目を作り、参加者にそれぞれ書き込んでもらいます。これにより、議論を特定の項目に絞り込みやすくなり、付箋のようにアイデアを整理しながら、効率的かつ網羅的に振り返りを行うことができます。振り返りの結果は画像としてエクスポートし、議事録に添付するなどして記録として残すことも可能です。
意見収集やアンケートの補助
簡単な図や問いかけをキャンバスに描き、それに対して参加者に直接コメントやアイデアを書き込んでもらう、という使い方もできます。例えば、新しい企画のアイデアに対する意見を募る際に、匿名での書き込みを許可することで、より率直な意見を集められる可能性があります。
Excalidraw活用による効果
Excalidrawを地域活動に導入することで、以下のような効果が期待できます。
- アイデアが出やすくなる: 視覚的に情報を共有し、共同で編集することで、参加者全員が議論に加わりやすくなります。
- 思考や情報が整理される: 散らばったアイデアを整理し、構造化することで、議論の内容が明確になります。
- 共同作業が促進される: オンライン環境でも、対面に近い感覚で共同で作業を進めることができます。
- 振り返りの質が向上する: 定められたフレームワークに沿って、効率的に活動の成果や課題を共有・整理できます。
- オンライン会議の効率化: 口頭での説明が難しかった内容も、図や絵で補足することで伝わりやすくなります。
- コスト削減: オープンソースであり、SaaS版にも無料枠があるため、費用を抑えて利用を開始できます。
導入・活用にあたってのポイント
Excalidrawの導入は非常に手軽です。特別なソフトウェアのインストールは不要で、ウェブブラウザでexcalidraw.comにアクセスするだけですぐに利用できます。
共同編集を行う場合は、キャンバスを開いた後に表示される共有リンクを、会議の参加者に共有します。リンクを知っている人であれば誰でも編集に参加できる設定にするか、読み取り専用にするかなど、共有設定を選べます。
活用にあたっては、参加者の方々にツールの基本的な使い方(図形の描き方、テキストの入力、付箋の追加など)を簡単に説明しておくと、スムーズな共同作業につながります。Excalidrawは非常にシンプルなツールですので、短時間で慣れることができるでしょう。
作成した内容は、画像ファイル(PNG, SVG形式)やExcalidraw独自のファイル形式でエクスポートして保存できます。議事録や活動報告書に添付するなど、記録として活用してください。
ただし、Excalidrawはあくまでシンプルなツールです。複雑で正確な設計図やグラフを作成するのには向いていません。アイデア出しやラフな図解、思考整理といった用途に限定して利用するのが効果的です。
まとめ・今後の展望
OSSのオンラインホワイトボードツールExcalidrawは、そのシンプルさと共同編集機能によって、地域活動におけるアイデア出しや振り返りといったシーンで大きな力を発揮します。技術的なハードルが低く、費用も抑えられるため、多くの地域団体にとって試しやすいツールと言えるでしょう。
オンラインでの活動が増える中で、対面のような活発なコミュニケーションや共同作業の質を維持・向上させることは、多くの団体が直面する課題です。Excalidrawのようなツールを上手に活用することで、これらの課題を乗り越え、活動の創造性や学びのサイクルを加速させることが期待できます。
今後、他のオープンソースツール(例えば、オンライン会議ツールのJitsi Meetや、情報共有プラットフォームのNextcloudなど)と連携させて活用することで、より効率的で豊かな地域活動が実現される可能性も広がっていくでしょう。