地域活動の「見える化」を促進!OSS draw.io (Diagrams.net)活用事例
はじめに
地域社会の活性化に取り組む多くの団体やNPOでは、多様なメンバーが協力して活動を進めています。活動の内容が複雑になったり、参加メンバーが増えたりするにつれて、「活動全体の流れが分かりにくい」「役割分担が曖昧になる」「新しいメンバーに説明するのが大変」といった情報共有や理解に関する課題に直面することがあります。
このような課題を解決するために有効な手段の一つが、「図解」による情報の整理と共有です。しかし、専門的な図解ツールは高価であったり、操作が難しかったりする場合があります。そこで注目したいのが、オープンソースの図解ツールである draw.io (現名称: Diagrams.net) です。このツールは、Webブラウザから手軽に利用でき、地域活動における情報整理やコミュニケーションの円滑化に大いに役立てることができます。
この記事では、draw.ioが地域活動のどのような課題に有効か、そして具体的にどのように活用できるのかを事例を交えてご紹介します。
背景・課題
私たちの地域活動では、複数のプロジェクトが同時並行で進んでおり、それぞれに関わるメンバーも異なります。以前は、活動計画や体制について、口頭での説明やテキストベースの資料で共有していました。
しかし、これにより以下のような課題が発生していました。
- 活動全体像の把握の難しさ: テキストだけでは、各プロジェクトの関連性や全体の中での位置づけが直感的に理解しづらい。
- 情報伝達の非効率性: 会議での説明に時間がかかり、質疑応答も多く発生する。
- 認識のずれ: 各メンバーが頭の中で思い描く活動イメージにばらつきが生じる。
- 新規メンバーのオンボーディング: 活動の歴史や複雑な体制を一から説明するのが負担になる。
- 専門ツールの導入障壁: 見やすい図を作成したいが、高価なソフトウェアを購入したり、高度な操作を習得したりする予算や時間が確保できない。
これらの課題を解決し、よりスムーズで効率的な活動運営を目指す必要がありました。
導入したOSS/技術: draw.io (Diagrams.net)
そこで私たちが導入を検討し、活用を始めたのがオープンソースの図解ツール draw.io (現名称: Diagrams.net) です。draw.ioは、フローチャート、組織図、ネットワーク図など、様々な種類の図を簡単に作成できるツールです。
このツールを選んだ理由はいくつかあります。
- オープンソース・無料: ソフトウェアの利用に費用がかからず、予算が限られている地域活動には最適でした。
- 手軽さ: Webブラウザからすぐにアクセスして利用開始できます。ソフトウェアのインストールが不要(デスクトップ版もあります)な点も手軽でした。
- 直感的な操作: 図形をドラッグ&ドロップで配置し、コネクタでつなぐといった操作が中心で、専門知識がなくても比較的容易に使い始めることができました。
- 豊富なテンプレート: 様々な種類の図に対応したテンプレートが用意されており、ゼロから作成する手間を省けます。
- 多様な保存先: 作成した図をGoogle Drive, OneDrive, Dropboxといったクラウドストレージや、ローカルデバイスに保存できます。これにより、団体の情報共有体制に合わせた運用が可能です。
具体的な活用方法
私たちはdraw.ioを以下のようなシーンで活用しています。
1. イベント企画のプロセス整理
地域イベントの企画段階で、準備から実施、事後対応までの全体の流れをフロー図として作成しました。「企画立案」「広報」「参加者募集」「会場設営」「当日運営」「会計処理」「報告書作成」といった主要なステップを洗い出し、それぞれの担当者や必要なタスク、期日を補足情報として図中に書き込んでいきます。
これにより、参加メンバー全員がイベントの全体像と自身の役割、そして他のメンバーとの連携ポイントを視覚的に把握できるようになりました。会議での説明資料としても非常に分かりやすく、認識のずれを防ぐのに役立っています。
2. 組織体制・役割分担の見える化
団体の組織図を作成し、各役職や担当部署、その役割範囲を図示しました。特に、複数のプロジェクトが関わる横断的な役割や、外部連携が必要な部分を明確に表現することで、誰がどのような権限を持ち、誰に相談すべきかが一目で分かるようになります。
これは新規メンバーのオリエンテーション資料としても非常に有効です。図を見ながら説明することで、組織構造や人間関係を短時間で理解してもらうことができます。
3. 会議でのアイデア整理・ブレインストーミング
オンライン会議ツールと組み合わせて、会議中にリアルタイムでアイデアや議論の内容を簡単な図やマインドマップ形式で整理することもあります。参加者の発言を視覚的に構造化していくことで、議論が整理され、活発な意見交換を促すことができます。
作成した図は議事録の補足資料として共有することで、会議の内容を振り返りやすくする効果もあります。
4. 活動報告や提案資料への活用
作成した図は、画像ファイル(PNG, JPEG)やPDFファイルとしてエクスポートできます。これを活動報告書や、外部への提案資料に貼り付けることで、内容をより分かりやすく伝えることができます。複雑な取り組み内容も、図解によって説得力が増します。
導入効果・メリット
draw.ioの導入により、私たちの活動には以下のような効果が見られました。
- 情報共有の質向上: 図解を用いることで、複雑な情報も直感的かつ正確に伝わるようになり、メンバー間の理解度が向上しました。
- 会議効率の向上: 計画や状況の説明時間が短縮され、より実質的な議論に時間を費やせるようになりました。
- 認識のずれ防止: 全員が同じ図を見ながら話すことで、「言ったはず」「理解したはず」のずれが減少しました。
- 新規メンバーの受け入れスムーズ化: 活動全体像や組織構造の理解が早まり、早期に活動に馴染んでもらえるようになりました。
- コスト削減: 高価な図解ソフトウェアを導入する必要がなく、費用ゼロで利用を開始できました。
導入のポイント・注意点
draw.ioを地域活動に導入する際のポイントや注意点をいくつかご紹介します。
- 利用方法の選択: draw.ioはWebブラウザ版が最も手軽ですが、インターネット接続がない場所での利用や、より安定した動作を求める場合はデスクトップ版も選択肢に入ります。団体の活動スタイルに合わせて選びましょう。
- 保存先の決定: 作成した図のデータは、Google DriveやDropboxといったクラウドストレージ、またはローカルファイルとして保存できます。どの保存先を利用するかを事前に決め、メンバー間で共有ルールを設けることが重要です。共同編集機能は、選択したクラウドストレージの機能に依存する場合が多いです。
- 操作の習得: 基本操作は簡単ですが、より複雑な図を作成するには多少の慣れが必要です。初めて使うメンバー向けに、簡単な操作ガイドを作成したり、一緒に触ってみる時間を設けたりすると良いでしょう。Web上には多くの操作方法に関する情報があります。
- まずはシンプルな図から: 最初から完璧な図を目指す必要はありません。まずは活動のごく一部のフローや、簡単な組織図から作成を始め、徐々に活用範囲を広げていくのがお勧めです。
技術サポートが限られる状況でも、draw.ioはコミュニティによる情報が多く公開されており、基本的な利用であれば独力で進めやすいツールと言えます。
まとめ・展望
OSSであるdraw.io (Diagrams.net) は、地域活動における情報整理やコミュニケーションの課題に対し、非常に有効かつ手軽に導入できる解決策を提供してくれます。複雑な計画や組織構造も「見える化」することで、メンバー間の理解を深め、活動をよりスムーズに進めることが可能です。
地域活動において、アイデアや計画を視覚的に共有したい、情報伝達の効率を上げたいとお考えであれば、ぜひdraw.ioの活用を検討してみてはいかがでしょうか。コストをかけずに、活動の質を高める一歩となるはずです。今後は、作成した図をWebサイト(WordPressなど)や情報共有基盤(Nextcloudなど)に埋め込んで活用するなど、他のOSSツールとの連携も視野に入れていきたいと考えています。