地域活動のノウハウを蓄積・共有!OSS Wiki.js活用事例
地域活動に取り組む中で、「あの時のやり方はどうだったかな?」「新しく参加したメンバーに、これまでの経緯をどう伝えようか」「担当者しか知らない情報がある」といった課題に直面することは少なくないかと思います。活動を続けるにつれて、重要な情報や積み重ねられたノウハウは増えていきますが、これらが特定のメンバーの記憶や個人のファイルの中に留まってしまうと、せっかくの財産が十分に活用されず、活動の継続や拡大の障壁となる可能性があります。
このような課題を解決し、組織全体の情報共有やノウハウの形式知化を進めるための有効な手段の一つとして、オープンソースのWikiソフトウェアを活用する方法があります。この記事では、シンプルで使いやすいOSS「Wiki.js」を地域活動の情報共有基盤として活用する事例をご紹介します。
背景と課題:情報散逸と共有の非効率性
多くの地域活動団体やNPOでは、以下のような情報に関する課題を抱えています。
- 情報が分散している: 議事録は共有フォルダ、連絡先リストは個人のスプレッドシート、イベント手順は紙の資料、といったように情報が様々な場所に散在し、どこに何があるか分かりにくい。
- ノウハウが共有されない: 特定のイベント運営や申請手続きの経験など、活動を通じて得られた貴重なノウハウが、それを経験したメンバーにしか共有されず、他のメンバーや後継者に引き継ぎにくい。
- 新しいメンバーへの情報伝達コスト: 新しい参加者やメンバーに、団体の歴史や活動内容、基本的なルールなどを説明するのに多くの時間と労力がかかる。 情報の更新・管理が煩雑: 最新の情報がどれか分かりにくく、古い情報に基づいて行動してしまうリスクがある。
これらの課題は、活動の効率を低下させるだけでなく、メンバー間の連携不足や、活動への参加ハードルを高める原因にもなり得ます。
導入したOSS:Wiki.js
この課題に対し、ある地域の市民活動団体では、オープンソースのWikiソフトウェアである「Wiki.js」を導入しました。Wiki.jsは、比較的モダンなインターフェースを持ち、Markdown(簡単な記法で文書構造を記述できる方式)を主な編集方法としているため、技術的な専門知識が少なくても文書作成や編集を行いやすい特徴があります。
なぜWiki.jsを選んだのでしょうか。いくつかの理由が挙げられます。
- 導入のしやすさ: Docker(ソフトウェアを動かすための環境を簡単に構築できる技術)を利用することで、比較的容易にサーバーへのインストールが可能です。クラウド上で提供されているレンタルサーバーなどでも動作させやすい構成です。
- 編集の手軽さ(Markdown): HTMLなどのWeb技術を知らなくても、見出しやリスト、リンクなどを簡単な記法で記述できます。共同編集にも向いています。
- モダンなユーザーインターフェース (UI): 直感的で分かりやすいデザインのため、PC操作に慣れていないメンバーでも抵抗なく利用を開始しやすいと考えました。
- 検索機能: 情報を探す際に強力な検索機能が利用できるため、目的の情報にすぐにたどり着けます。
- アクセス権限管理: 特定のページへのアクセスをメンバー限定にしたり、特定のユーザーグループだけが編集できるようにするなど、柔軟な設定が可能です。
商用の情報共有ツールや高機能なグループウェアは高価であったり、機能が多すぎて使いこなせないという懸念がありましたが、Wiki.jsは情報の集約・共有という目的に絞れば十分な機能を持ち、オープンソースであるためコストを抑えて導入できる点が大きな魅力でした。
具体的な活用方法
この団体では、Wiki.jsを以下のように活用しています。
- 活動マニュアルと手順書の作成: 定期的に開催するイベントの準備手順、広報物の作成手順、会計処理の基本的な流れなどをページとして作成し、メンバー全員がいつでも参照できるようにしています。Markdown記法で箇条書きやチェックリストを簡単に作成し、見やすく整理しています。
- 議事録の保管と公開: 会議の議事録は、日付ごとにページを作成して保管しています。決定事項やToDo(やるべきこと)を明確に記述し、関連する資料へのリンクも貼っています。メンバー向けには詳細な議事録を、地域住民向けには要約版を公開するなど、アクセス権限を活用しています。
- メンバー・関係者向けFAQ: 新しいメンバーからよく寄せられる質問(例:「〇〇の担当者は誰ですか?」「資料はどこにありますか?」「イベントの申し込み方法は?」など)とその回答をまとめています。これにより、既存メンバーが繰り返し同じ説明をする手間が省けました。
- 地域情報のデータベース化: 地域の公共施設、集会所の利用方法や連絡先、地域のイベントカレンダー、関連する他の地域団体リストなどをページにまとめています。これにより、メンバーが地域のリソース情報を探す際の手間が減り、よりスムーズに活動を進められるようになりました。
- プロジェクトごとの情報ハブ: 特定のプロジェクト(例: 新しいイベント企画、地域の課題調査など)に関する情報を集約するページを作成し、アイデア、進捗状況、関連資料へのリンクなどを一箇所にまとめています。
Wiki.jsの編集はWebブラウザ上で行えるため、特別なソフトウェアは不要です。Markdown記法も、慣れれば数分で基本的な使い方が理解できるシンプルなものです。例えば、見出しは行頭に#
を、箇条書きは行頭に-
や*
を、太字にしたい部分は**
で囲むだけです。共同編集機能はないものの、バージョン管理機能があるため、誰がいつどのように編集したかを確認でき、誤って内容を消してしまっても元に戻すことが可能です。
導入効果とメリット
Wiki.jsの導入により、この団体では様々なメリットが得られました。
- 情報共有の効率化: 必要な情報がWikiに集約されたことで、「あの情報どこだっけ?」と探す時間が大幅に減り、メンバー間の問い合わせも減少しました。新しいメンバーもWikiを見れば活動の概要やルールを自己学習できるため、オンボーディングの負担が軽減されました。
- ノウハウの継承: 個人の頭の中にあったノウハウが文字として記録・共有されるようになり、担当者が変わっても活動の質を維持・向上させることが期待できるようになりました。
- 情報の信頼性向上: 最新の情報がWikiに一元化されるため、古い情報による混乱が減少しました。
- コスト削減: 商用ツールと比較して、導入・運用コストを低く抑えられました。サーバー費用以外は基本的に無料です。
定量的な効果として、例えば「新しいメンバーへの説明にかかる時間が平均〇時間から〇時間に短縮された」、「特定の情報に関する問い合わせが〇%減少した」といった形で効果を実感しています。
導入のポイントと注意点
Wiki.jsを地域活動に導入・活用する上で、いくつかのポイントと注意点があります。
- 導入方法の検討: Wiki.jsのインストールにはサーバーが必要になります。Dockerを利用した方法が推奨されていますが、サーバーの準備や設定にある程度の技術知識が必要です。自団体でのサーバー運用が難しい場合は、レンタルサーバーのマネージドサービスを利用するか、技術サポートを提供できるメンバーや外部の協力者を探すことも検討しましょう。
- 運用ルールの策定: Wikiは「みんなで育てる情報資産」ですが、誰がどんな情報を書き込むか、情報の更新頻度、削除ルールなどを事前に話し合って決めておくとスムーズです。まずは議事録やFAQなど、特定の種類の情報から集約を開始すると良いでしょう。
- Markdown記法の習得サポート: Markdown記法はシンプルですが、初めて使うメンバーには少し慣れが必要です。簡単なチートシートを作成したり、書き方に関する短いレクチャーを行うなど、メンバーが抵抗なく編集を開始できるようサポートしましょう。
- アクセス権限の設定: 外部に公開する情報と、メンバー限定の情報がある場合は、適切なアクセス権限を設定することが重要です。誤って非公開情報を公開してしまわないよう注意が必要です。
- 定期的なバックアップ: 万が一のサーバー障害などに備え、Wikiに蓄積した情報は定期的にバックアップを取るようにしましょう。
技術サポートが限られる状況では、Wiki.jsの公式ドキュメント(英語が中心ですが、自動翻訳などを活用)や、オンラインの技術コミュニティ、技術系のボランティアを募集するなど、様々な方法で課題解決の糸口を探すことができます。
まとめと展望
OSSであるWiki.jsを活用することは、地域活動における情報共有の非効率性を解消し、活動の継続性と発展を支える強力な手段となり得ます。バラバラになりがちな議事録、マニュアル、連絡先、地域情報などを一箇所に集約し、誰でも簡単に見たり編集したりできる環境を整えることは、メンバー間の連携強化や新しい参加者の受け入れをスムーズにする上で非常に有効です。
Wiki.jsは、その導入のしやすさ、Markdownによる編集の手軽さ、モダンなインターフェース、そして強力な検索機能といった特徴から、技術的なハードルを感じやすい地域活動の現場でも導入しやすいオープンソースツールの一つと言えるでしょう。
この事例が、皆さんの地域活動における情報管理や共有の課題解決の一助となれば幸いです。地域で培われた貴重な「知恵」をオープンソースの力で活かし、活動をさらに活性化させていきましょう。