地域活動の問い合わせ対応をスムーズに!OSS osTicket活用事例
はじめに
地域社会をより良くするための活動において、NPOや市民団体は地域住民や関係者との円滑なコミュニケーションが非常に重要となります。特に、イベントへの参加申し込み、事業に関する質問、ボランティアへの応募など、様々な問い合わせに対応することは日々の活動の重要な一部です。しかし、これらの問い合わせがメール、電話、SNSなど様々な経路から寄せられると、対応が煩雑になり、情報共有が難しくなるという課題に直面することが少なくありません。
本記事では、このような地域活動における問い合わせ対応の課題を解決するための一助となるオープンソースソフトウェア(OSS)、「osTicket(オスティケット)」の活用事例をご紹介します。osTicketは、本来カスタマーサポート向けのツールですが、その機能を地域活動の問い合わせ管理に応用することで、情報共有の促進や活動の効率化に繋げることができます。
背景・課題:地域活動における問い合わせ対応の悩み
多くの地域NPOや市民活動団体では、問い合わせ対応に関する以下のような課題を抱えています。
- 問い合わせチャネルの分散: メール、電話、団体のウェブサイトにあるフォーム、SNSのメッセージなど、様々な経路から問い合わせが寄せられ、一元管理が難しい。
- 対応漏れや遅延: 問い合わせが多くなると、誰がどの問い合わせに対応しているか分からなくなり、対応が遅れたり、最悪の場合には対応が漏れてしまったりすることがある。
- 情報共有の不足: 問い合わせ内容や対応状況が個々の担当者任せになり、団体内で情報が共有されにくい。同じ質問に対して複数の担当者が別々に回答してしまう、あるいは過去の対応履歴が分からず一から調べ直すといった非効率が生じる。
- ナレッジの蓄積が難しい: よくある質問への回答や、過去の対応から得られた知見が属人化し、団体全体の財産として蓄積・活用されにくい。
これらの課題は、活動の非効率を招くだけでなく、問い合わせた方々への対応品質にも影響し、結果として団体の信頼性に関わる問題に発展する可能性もあります。
導入したOSS/技術:問い合わせ管理システム osTicket
これらの課題解決のために、ある地域活動団体が導入を検討し、活用を始めたのがOSSの問い合わせ管理システム「osTicket」です。osTicketは、無償で利用できるオープンソースのチケットシステムで、顧客からの問い合わせを「チケット」として一元管理することを主な機能としています。
osTicketを選んだ理由はいくつかあります。まず、オープンソースであるためライセンス費用がかからず、予算が限られている地域活動団体にとって導入のハードルが低い点が大きな魅力でした。また、問い合わせの受付から対応完了までのプロセスをシステム上で管理できる機能が豊富であり、メールとの連携も容易なため、既存の問い合わせフローを大きく変えることなく導入できる見込みがあったことも理由の一つです。
osTicketの主な機能は以下の通りです。
- チケット管理: 寄せられた問い合わせを一つ一つチケットとして登録し、管理します。チケットには問い合わせ内容、対応履歴、担当者などの情報が付与されます。
- メール連携: 特定のメールアドレスに届いたメールを自動的にチケットとして取り込むことができます。
- Webフォーム受付: ウェブサイトに問い合わせフォームを設置し、そこからの入力をチケットとして受け付けることができます。
- 担当者・部署設定: 問い合わせの内容や種類に応じて、担当者や担当部署を割り当てることができます。
- ステータス管理: チケットの現在の状況(新規受付、対応中、保留、完了など)を管理し、対応の進捗を可視化できます。
- ナレッジベース/FAQ: よくある質問とその回答を登録しておき、公開することで、問い合わせる側が自分で情報を得られるようにする機能です。
- 検索・レポート機能: 過去のチケットを検索したり、問い合わせ件数や対応状況に関する基本的なレポートを作成したりすることができます。
具体的な活用方法:osTicketを地域活動にフィットさせる工夫
この団体では、osTicketを以下のように地域活動における問い合わせ対応に活用しています。
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問い合わせ窓口の一元化:
- 団体への主要な問い合わせ窓口として、特定のメールアドレス(例: info@[団体名].org)を設け、そのアドレスに届いたメールをosTicketに自動で取り込む設定を行いました。これにより、メールでの問い合わせがすべてチケットとして管理されるようになりました。
- ウェブサイトには、イベント申し込みフォームや、事業に関する問い合わせフォームをosTicketの機能を使って設置。フォームからの入力も直接チケットとして登録されるようにしました。これにより、問い合わせの経路が整理され、すべてosTicket上で確認できるようになりました。
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対応状況の「見える化」と共有:
- osTicket上で、各チケットに担当者を割り当て、現在のステータス(例: 新規、担当者確認中、回答準備中、回答済み、完了)を明確に表示するようにしました。
- 団体のメンバーはosTicketにログインすれば、現在どのような問い合わせが届いていて、誰が担当し、どの段階にあるのかをリアルタイムで確認できます。これにより、「この問い合わせ、誰か見てる?」といった確認の手間がなくなり、対応漏れや重複対応を防ぐことができています。
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対応履歴の蓄積とナレッジ共有:
- チケットに紐づく形で、担当者間のやり取りや、問い合わせた方への回答内容がすべて記録されます。これにより、過去にどのような問い合わせがあり、どのように対応したのかがいつでも振り返られるようになりました。
- 特に頻繁に寄せられる質問については、osTicketのナレッジベース機能を利用してFAQを作成し、ウェブサイト上で公開しました。これにより、問い合わせる側は自己解決できる機会が増え、団体側の対応負荷が軽減されました。また、新しく対応を担当するメンバーもFAQを参照することで、スムーズに業務に入れるようになりました。
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担当者間の連携促進:
- 一つの問い合わせに対して複数のメンバーが関わる場合、チケット内のメモ機能を使って、担当者間での情報共有や引継ぎを行っています。これにより、口頭や別ツールでの連絡の手間が減り、対応の質も向上しました。
導入効果・メリット:対応品質の向上と効率化
osTicketの導入により、この団体では以下のような効果やメリットを実感しています。
- 対応漏れの激減: すべての問い合わせがチケットとして管理されるため、対応が必要なものがシステム上に表示され続け、見落としがなくなりました。
- 対応スピードの向上: 対応状況が可視化されたことで、特定の担当者に業務が集中しすぎるのを防ぎ、迅速な対応が可能になりました。また、ナレッジベースの活用により、よくある質問への回答時間が大幅に短縮されました。
- 団体内の情報共有促進: 誰が何に対応しているか、過去にどのようなやり取りがあったかが明確になり、団体内の情報共有が円滑になりました。
- 対応品質の安定: 標準化されたプロセスと蓄積されたナレッジにより、どの担当者が対応しても一定の品質を保てるようになりました。
- コスト削減: ライセンス費用がかからないため、システム導入にかかるコストを抑えることができました。
定量的な成果としては、例えば導入前と比較して、問い合わせへの初回応答までの平均時間が約30%短縮されたり、対応漏れ件数がほぼゼロになったりといった効果が見られています。
導入のポイント・注意点:非技術者がつまづかないために
osTicketはオープンソースであり、自身でサーバーを用意してインストールする必要があります。この点が、技術的な専門知識があまりない方にとってはハードルとなる可能性があります。
この団体が導入にあたって工夫したポイントや注意点は以下の通りです。
- 技術サポートの確保: 団体のメンバーの中に技術に詳しい人がいなかったため、初期のサーバー構築やosTicketのインストール、基本的な設定(メール連携など)については、地域のITボランティアや、低価格でサポートを提供している事業者を探して協力を依頼しました。
- 簡単な運用マニュアルの作成: 日々のチケット対応を行うメンバー向けに、ログイン方法、チケットの確認方法、担当者の割り当て方、返信方法、ステータス変更の方法など、必要最低限の操作に絞った分かりやすいマニュアルを作成しました。
- 段階的な導入: 最初から全ての問い合わせ窓口をosTicketに一本化するのではなく、まずは特定の事業に関する問い合わせ窓口から試験的に導入し、メンバーがシステムに慣れてから対象を広げました。
- コミュニティの活用: 運用中に不明点や問題が発生した場合、osTicketの公式フォーラムやユーザーコミュニティを活用して情報を収集したり、質問を投稿したりしました。オープンソースソフトウェアは、このようにユーザー同士で助け合う文化が根付いている場合があります。
自身でのサーバー構築が難しい場合は、osTicketを提供するホスティングサービス(有償)を利用するという選択肢もあります。予算と技術スキルを考慮して、最適な方法を選択することが重要です。
まとめ・展望:osTicketが拓く地域活動の未来
osTicketのようなOSSの問い合わせ管理システムは、地域NPOや市民活動団体が直面する情報共有や対応の非効率といった課題に対して、非常に有効な解決策となり得ます。無償で利用でき、豊富な機能を備えているosTicketを活用することで、問い合わせ対応の品質を向上させ、団体の活動をより円滑に進めることが可能です。
導入には多少の技術的なハードルがあるかもしれませんが、地域のITボランティアの協力を得たり、段階的に導入を進めたりすることで、十分に活用していくことができます。
この団体では、今後さらにosTicketの機能を活用し、例えば問い合わせの種類に応じた自動振り分け設定を詳細に行ったり、レポート機能を活用して問い合わせの傾向を分析し、今後の活動計画に役立てたりすることを検討しています。
地域における様々な活動において、OSSは単なる技術ツールとしてだけでなく、活動の基盤を支え、より多くの人との繋がりを深めるための強力なパートナーとなり得ます。osTicketの活用事例が、皆さんの地域活動における課題解決のヒントとなれば幸いです。