地域活動の情報共有を変える!無料OSS Mattermostの導入と活用事例
はじめに
地域でのNPO活動や市民活動、ボランティア団体などの運営において、メンバー間の円滑な情報共有は非常に重要な要素です。しかし、活動に参加するメンバーは年齢層やITリテラシーが様々であり、情報伝達の手段が分散しがちです。メール、電話、LINE、Facebookグループなど、様々なツールが混在することで、情報が特定のメンバーにしか届かなかったり、過去のやり取りを探すのに手間取ったりといった課題が発生することが少なくありません。
このような状況を改善し、よりスムーズで効率的なコミュニケーションを実現するために、オープンソースのコミュニケーションツールであるMattermostが有効な選択肢となり得ます。本記事では、地域活動の現場でMattermostを導入し、情報共有の課題解決に繋がった具体的な事例とその活用方法、導入にあたってのポイントをご紹介します。
背景・課題:情報が分散し、連携に支障が出ていた地域団体
ある地域で高齢者の見守りや地域交流イベントの企画・運営を行っている市民活動団体では、約50名のメンバーが活動していました。以前は、定例会の連絡やイベント告知はメール、緊急性の高い連絡は電話や個別のLINEグループ、活動報告はFacebookグループ、資料共有は個人のオンラインストレージ、というように複数のツールを使い分けていました。
この運用方法には、いくつかの課題がありました。まず、情報が複数の場所に散らばっているため、「あの情報はどこにあったか?」と探す手間が発生し、特に新しいメンバーにとっては必要な情報を見つけるのが困難でした。また、メールは見落とされやすく、LINEグループも数が増えると通知が煩雑になり、重要な情報を見逃すリスクがありました。さらに、活動の進捗状況や担当の確認なども個別のやり取りに依存することが多く、プロジェクト全体の状況を把握しにくいという問題も抱えていました。情報伝達の遅れや漏れが、活動の効率を下げ、メンバー間の連携に支障をきたしていました。
導入したOSS/技術:オープンソースのチームコミュニケーションツール Mattermost
この団体が情報共有の一元化と円滑化のために導入を決めたのが、オープンソースのチームコミュニケーションツールであるMattermostです。Mattermostは、SlackやMicrosoft Teamsといったチャットツールと同様の機能を提供しますが、ソフトウェア自体がオープンソースとして公開されており、自団体でサーバーを構築・運用することが可能です(クラウド版もあります)。
この団体がMattermostを選んだ主な理由は以下の通りです。
- オープンソースであること: 特定のベンダーに依存せず、将来にわたって継続的に利用できる可能性が高いと判断しました。また、コミュニティ版であれば無料で利用開始できるため、予算が限られている団体にとって導入のハードルが低い点が魅力でした。
- 情報の一元化: チャット、ファイル共有、検索機能などが統合されており、メンバー間のコミュニケーションを一つのプラットフォームに集約できると考えました。
- 高い検索性: 過去のメッセージや共有されたファイルをキーワードで簡単に検索できる機能は、情報が蓄積されていく中で非常に有用です。
- 柔軟なチャンネル管理: 活動内容やプロジェクト、チームごとにチャンネルを分けることで、関連性の高い情報だけを効率的に共有できる点に注目しました。
- プライバシーとセキュリティ: 自団体でサーバーを管理することで、情報の取り扱いに関するプライバシーやセキュリティをよりコントロールしやすいと考えました。
具体的な活用方法:Mattermostで変わった情報共有の現場
団体では、Mattermostの導入後、以下のように活用を進めました。
-
チャンネル設計の見直し:
- 「全体連絡」チャンネル:全てのメンバーに向けた重要なお知らせや定例会の日程調整などに使用。
- 「イベント企画(〇〇)」チャンネル:特定のイベント準備に関する情報共有、タスク分担、進捗確認に使用。
- 「見守り活動チーム」チャンネル:見守り活動に関する日々の申し送りや情報交換に使用。
- 「事務局連絡」チャンネル:運営に関わるコアメンバー間の情報共有に使用。
- その他、「休憩室」のような雑談チャンネルも設け、非公式な交流の場も作りました。
- これにより、参加メンバーは自分の関わる活動に必要な情報のみを効率的に追えるようになりました。
-
メンション機能の活用:
- 特定の個人への連絡は
@username
、チャンネル内の全員への連絡は@channel
、オンラインのメンバーへの連絡は@here
といったメンション機能を積極的に使用。誰に情報が届いているかが明確になり、連絡漏れが減少しました。
- 特定の個人への連絡は
-
ファイル共有と過去ログ検索:
- 会議資料やイベントのチラシ、活動報告書などのファイルは関連するチャンネルにアップロード。後から参加したメンバーも、チャンネルの履歴やファイル一覧から必要な資料を簡単に見つけられるようになりました。
- 過去の議論や決定事項を確認したい場合は、キーワード検索機能を使って迅速に必要な情報を探し出しています。
-
インテグレーション機能(簡易的な活用):
- 無料版でも利用できる簡単なインテグレーションとして、特定のキーワードを含むメッセージがあった場合に通知を受け取る設定や、外部サービスとの連携(例: RSSフィードで地域の最新ニュースを自動投稿するなど、可能な範囲で)を試みました。
導入効果・メリット:情報共有の円滑化と活動効率の向上
Mattermostの導入により、この団体では目に見える効果が現れました。
- 情報共有のスピードと正確性が向上: リアルタイムでの情報伝達が可能になり、緊急時や素早い確認が必要な場面での対応が迅速になりました。情報が1箇所に集約されたことで、「どの情報が最新か」「誰に確認すればよいか」といった混乱が解消されました。
- 連絡漏れや見落としの削減: メンション機能の活用や、チャンネルごとの情報整理により、重要な情報が埋もれてしまうリスクが大幅に減りました。
- 会議の効率化: 事前にMattermost上で議題や資料を共有しておくことで、会議当日の説明時間を短縮し、議論に集中できるようになりました。
- 新しいメンバーのオンボーディングが容易に: チャンネルの履歴を見ることで、団体の活動内容や過去の議論の経緯を新しいメンバーが自分でキャッチアップしやすくなりました。
- コミュニケーションコストの削減: 個別のメールや電話でのやり取りが減り、メンバー全員で情報共有する習慣がついたことで、情報伝達にかかる時間と手間が削減されました。
- コスト負担なし(コミュニティ版の場合): 高機能なコミュニケーションツールを、ライセンス費用をかけずに利用できている点は、予算が限られるNPOにとって大きなメリットです。
導入のポイント・注意点:技術ハードルとメンバーへの周知
Mattermostの導入にあたっては、いくつかのポイントと注意点がありました。
- サーバーの準備と運用: Mattermostを自前で運用する場合、サーバーの準備(物理サーバー、VPS、クラウドなど)と継続的な運用管理(アップデート、バックアップなど)が必要です。この団体では、ITに詳しいボランティアメンバーが中心となり、比較的安価なVPS(仮想専用サーバー)を利用して構築・運用を行いました。技術的な知識がない場合は、導入支援を行っているNPOサポート団体に相談したり、Mattermostが提供する有料のクラウドサービスを利用したりといった選択肢も検討する必要がありますが、これはコストが発生します。
- メンバーへの利用促進とサポート: 新しいツールの導入に抵抗を感じるメンバーもいました。そこで、利用マニュアルを作成したり、使い方に関する簡単な説明会を実施したり、個別に質問を受け付けるサポート体制を整えたりしました。特にスマートフォンアプリの利用を推奨し、普段から使い慣れたツールに近い感覚で使えるように工夫しました。
- 既存ツールからの移行: 過去の情報を全てMattermostに移行することは難しいため、移行期間を設けたり、旧ツールの情報は参照用として一定期間残したりといった配慮が必要でした。
まとめ・展望:Mattermostが拓く地域連携の新たな可能性
この事例から、オープンソースのコミュニケーションツールMattermostが、地域活動における情報共有の課題解決に非常に有効であることが分かりました。情報の一元化、リアルタイム性の高いコミュニケーション、高い検索性といった機能は、特にボランティアや多様なバックグラウンドを持つメンバーで構成される地域団体において、連携強化と活動効率向上に大きく貢献します。
Mattermostの導入には技術的なハードルが伴う場合もありますが、そのメリットは大きく、地域の情報共有を円滑にし、メンバー間の絆を深める強力なツールとなり得ます。今後、さらに様々な地域団体がオープンソースツールを活用し、それぞれの課題を解決していくことで、地域社会全体の活性化に繋がっていくことが期待されます。