地域資源をデジタル化!OSS Omekaでつくる歴史・文化財アーカイブ活用事例
はじめに
地域には、古文書、写真、民具、そして人々の証言など、貴重な歴史や文化財が数多く存在します。これらの地域資源は、その地域のアイデンティティや魅力を形作る基盤ですが、紙媒体での保存による劣化や散逸のリスク、また、情報が整理されず活用されにくいといった課題を抱えている場合があります。本記事では、こうした地域資源をデジタル化し、誰もがアクセス・活用できるアーカイブを構築するためのオープンソースソフトウェア(OSS)である「Omeka(オメカ)」の活用事例についてご紹介します。
背景・課題
多くの地域活動団体やNPO、あるいは自治体の一部署などでは、地域の歴史資料や文化財の保存・活用に取り組んでいます。しかし、これらの資料は紙媒体で保管されていることが多く、時間とともに劣化が進み、紛失や災害による喪失のリスクに常にさらされています。また、保管場所が分散していたり、目録が整備されていなかったりするため、必要な情報を探し出すことが難しく、地域住民や外部の研究者が資料を活用したくても、そのハードルが高いという状況が見られます。
これらの課題を解決するためには、資料のデジタル化と体系的な管理が有効ですが、専門的な知識を持つ人材が不足していたり、高額なシステム導入費用や運用コストがネックとなったりして、なかなか実現に至らないのが現状です。
導入したOSS/技術:Omeka
こうした背景の中、地域の歴史・文化財アーカイブ構築に適したOSSとして注目されているのが「Omeka」です。Omekaは、図書館、博物館、公文書館といった機関(LAMS: Libraries, Archives, Museums)での利用を想定して開発されたウェブベースのデジタルアーカイブシステムです。
Omekaを選んだ理由としては、以下の点が挙げられます。
- デジタル資料管理に特化: さまざまな形式のデジタル資料(画像、PDF、音声、動画など)を登録・管理することに特化しており、アーカイブ構築に必要な機能(メタデータ管理、コレクション作成など)が標準で備わっています。
- 専門知識が不要: 比較的直感的な操作で資料の登録やサイト構築が可能であり、専門的なシステム開発の知識がなくても利用を開始できます。
- 低コスト: ソフトウェア自体は無償で利用でき、必要なコストはサーバー費用や、必要に応じたカスタマイズ費用などに抑えることが可能です。
- 拡張性: プラグインやテーマが豊富に提供されており、機能を追加したり、デザインを自由にカスタマイズしたりすることができます。
Omekaは、専門機関だけでなく、予算や人的リソースが限られる地域活動団体でも、比較的容易にデジタルアーカイブを構築・運用できるツールとして有効です。
具体的な活用方法
ある地域の歴史文化保存団体では、Omekaを導入し、地域に残る古写真や文書、聞き取り調査で収集した証言データなどのデジタルアーカイブを構築しました。具体的な活用方法は以下の通りです。
- 資料のデジタル化: 団体メンバーが所有する古写真や地域住民から提供された資料をスキャナーやデジタルカメラでデータ化しました。証言データはICレコーダーで録音し、音声ファイルとして保存しました。
- Omekaへの資料登録: デジタル化した資料は、Omekaの「アイテム」として一つずつ登録しました。登録時には、資料の種類(写真、文書など)、撮影・作成年代、関連人物、場所などの「メタデータ」情報を入力しました。メタデータとは、データに関する情報(例:写真の撮影者、撮影日など)のことで、これにより後から資料を検索しやすくします。国際的な標準規格であるダブリンコアなどのスキーマを利用することで、より体系的な整理が可能になります。
- コレクションの作成: 関連する資料を「コレクション」としてまとめました。例えば、「戦前戦後の地域の暮らし」「伝統行事の写真」「地域の産業の記録」といったテーマごとにコレクションを作成することで、利用者が関心のある分野の資料にアクセスしやすくなりました。
- ウェブサイトでの公開: Omekaには、登録した資料をウェブサイトとして公開する機能があります。デザインテーマを選択し、団体の活動紹介ページや問い合わせフォームなどを追加することで、地域住民だけでなく、インターネットを通じて世界中の人々がアーカイブにアクセスできるようになりました。
- プラグインによる機能拡張: 地図表示プラグインを利用して、写真が撮影された場所を地図上に表示したり、年表プラグインを利用して資料の年代順に出来事を整理したりするなど、プラグインを活用してアーカイブサイトをより魅力的に、より使いやすくする工夫を加えています。
- 地域住民との連携: 資料の公開にあたり、地域住民に広く周知し、間違いの指摘や、資料に関する新たな情報の提供を呼びかけました。これにより、アーカイブの質が向上するとともに、地域住民がアーカイブ構築に参加するという意識醸成にもつながりました。
導入効果・メリット
Omekaを活用してデジタルアーカイブを構築したことで、以下のような効果が得られました。
- 資料の長期保存と活用促進: 貴重な地域資料がデジタルデータとして安全に保存されるようになり、物理的な劣化や散逸のリスクが大幅に低減しました。また、ウェブサイトを通じて誰もがいつでも資料を閲覧・検索できるようになり、資料の活用機会が増加しました。
- 地域への関心喚起: 公開されたデジタルアーカイブサイトを見た地域住民や出身者から、「懐かしい」「こんな資料があったのか」といった反響があり、地域の歴史や文化に対する関心が改めて高まりました。
- 活動の「見える化」と参加者増加: 団体の活動成果がデジタルアーカイブという形で「見える化」されたことで、活動内容が理解されやすくなり、新たに活動に参加したいという問い合わせが増えました。
- 教育資源としての活用: 学校教育で地域の歴史を学ぶ際に、デジタルアーカイブが教材として活用されるようになりました。
- 低コストでの実現: 専門業者に委託する場合に比べて、大幅にコストを抑えて専門的なデジタルアーカイブシステムを構築することができました。
導入のポイント・注意点
Omekaの導入にあたっては、いくつかのポイントがあります。
- サーバー環境の準備: Omekaはウェブベースのソフトウェアのため、インターネットに接続されたサーバーが必要です。技術的な知識が少ない場合は、Omekaの動作要件を満たすレンタルサーバーや、インストール済みのクラウドサービスを利用するのが現実的です。
- 資料整理とメタデータ設計: 導入前に、対象となる資料を整理し、どのような情報をメタデータとして入力するかを事前に設計することが重要です。これにより、後々の検索性が大きく向上します。ダブリンコアなどの標準的なメタデータ項目を参考にすると良いでしょう。
- 運用体制の構築: 誰が資料のデジタル化、登録、ウェブサイトの更新を行うのか、責任者を明確にし、継続的な運用ができる体制を構築することが成功の鍵となります。
- 技術サポート: OSSであるため、特定のベンダーによる手厚いサポートは期待できません。問題が発生した場合は、公式ドキュメントやオンラインコミュニティ、関連書籍などを参考にしながら自力で解決するか、必要に応じて外部の専門家に依頼する必要があります。しかし、Omekaは比較的利用者が多く、情報も得やすい部類に入ります。
まとめ・展望
OSS Omekaは、予算や専門知識が限られる地域活動団体でも、地域の歴史資料や文化財をデジタル化し、効果的なデジタルアーカイブを構築できる強力なツールです。資料の長期保存、活用の促進、地域への関心喚起など、様々なメリットをもたらします。
地域に埋もれた貴重な地域資源を掘り起こし、デジタル化を通じて広く公開することは、地域の過去を知り、現在を理解し、未来を創造していく上で非常に重要な取り組みです。OmekaのようなOSSを活用することで、こうした取り組みがより多くの地域で実現されることが期待されます。今後は、登録資料のさらなる拡充や、他の地域活動で収集したデータとの連携、地域教育への活用など、デジタルアーカイブの可能性はさらに広がっていくでしょう。