地域活動のタスクと進捗を「見える化」 OSS WeKan活用事例
はじめに
地域活動やNPOの運営において、複数のメンバーと協力して活動を進める場面は数多くあります。イベントの企画・準備、広報活動、日々の運営業務など、それぞれのタスクを誰が担当し、現在どのような状況にあるのかを正確に把握し、共有することは、活動を円滑に進める上で非常に重要です。
しかし、多くの場合、こうしたタスク管理は口頭やメール、チャットツールでのやり取りに頼りがちです。結果として、「誰が何をやっているか分からない」「あの件はどうなった?」「締切が近いタスクを見落としていた」といった課題が生じやすくなります。
このような課題に対し、オープンソースのタスク管理ツール「WeKan(ウィーカン)」が有効な解決策となり得ます。本記事では、WeKanを地域活動でどのように活用できるのか、その具体的な事例と導入のヒントをご紹介いたします。
背景・課題
ある地域のまちづくり協議会では、年間を通じて様々なイベント企画やプロジェクトを並行して行っていました。メンバーは本業や他の活動と兼務している方が多く、集まって会議をする時間も限られていました。タスクの割り振りや進捗確認は主に定例会やチャットで行っていましたが、以下のような課題を抱えていました。
- タスクの全体像が見えにくい: 各プロジェクトに紐づくタスクが多く、全体のリストとして管理されていなかったため、何がどれだけ残っているのか、メンバー全員で把握することが困難でした。
- 個々の進捗状況が不透明: 担当者が個別に作業を進める中で、他のメンバーからはその進捗が分からず、状況確認のたびに担当者に問い合わせる必要がありました。
- 情報伝達の漏れ: メールやチャットでのやり取りの中にタスクに関する情報が埋もれてしまい、重要な決定事項や締切が見落とされることがありました。
- タスクの重複や漏れ: 誰かが同じタスクに着手してしまったり、逆に誰も担当していないタスクが発生したりすることがありました。
導入したOSS/技術:WeKan
これらの課題を解決するために、まちづくり協議会ではオープンソースのタスク管理ツール「WeKan」の導入を検討しました。WeKanは、カンバン方式と呼ばれる視覚的なタスク管理手法を採用したツールです。
なぜWeKanを選んだのか、その理由は以下の通りです。
- オープンソースであること: 無料で利用でき、ソフトウェアの透明性が高い点が、予算が限られる地域団体にとって魅力的でした。
- カンバン方式の直感的な操作性: 「To Do(やること)」「Doing(進行中)」「Done(完了)」といったリストを作り、タスクをカードとして配置し、進捗に応じてカードをドラッグ&ドロップで移動させるという操作は、専門知識がなくても直感的に理解しやすいと考えられました。
- カスタマイズ性: プロジェクトの特性に合わせて、リストの名称や数を自由に設定できる柔軟性がありました。
- データ主権: サーバーに自分たちで導入することで、活動に関する情報を自分たちの管理下における安心感がありました。
具体的な活用方法
まちづくり協議会では、WeKanを以下のように活用し始めました。
- プロジェクトごとの「ボード」を作成: 年間の主要なイベント(例:「夏祭り準備」「地域清掃プロジェクト」)や、継続的な運営業務(例:「広報活動」「運営会議アジェンダ管理」)ごとにWeKanの「ボード」を作成しました。
- ボード内に「リスト」を設定: 各ボード内で、タスクのステータス(段階)を示す「リスト」を設定しました。例えば、「夏祭り準備」ボードでは、「企画・検討中」「業者手配」「広報準備」「当日の運営」「事後報告」といったリストを作成しました。
- 具体的な「タスク(カード)」を作成: 各リストの中に、行うべき具体的な作業を「カード」として作成しました(例:リスト「業者手配」の中に「屋台出店者リストアップ」「音響設備業者選定」といったカードを作成)。
- カードに詳細情報を追加: 各カードには、タスクの内容、必要な情報(連絡先、参考資料など)を記述しました。また、担当者を割り当て、締切日を設定しました。
- 進捗状況の共有と更新: 各メンバーは、自分が担当するタスクの進捗に合わせて、カードを適切なリストへ移動させました(例:「屋台出店者リストアップ」が完了したら、「業者手配」リストから「完了」リストなどへ移動)。カードにコメント機能を使って、進捗報告や質問、関連情報を追記しました。関連資料は添付ファイル機能で共有しました。
- 会議での活用: 定例会では、WeKanのボード画面を共有しながら、全体の進捗状況を確認し、遅れているタスクや課題となっているタスクについて集中的に話し合うようになりました。
導入効果・メリット
WeKanの導入により、まちづくり協議会では以下のような効果が得られました。
- タスクの「見える化」による全体把握: 全メンバーがいつでもボードを確認することで、プロジェクト全体のタスク、個々の担当、進捗状況、締切を一目で把握できるようになりました。
- 情報共有の効率化: タスクに関する情報は全てカードに集約されるため、情報伝達の漏れが減り、必要な情報に素早くアクセスできるようになりました。
- 進捗確認の手間削減: 各メンバーが自分でカードを更新するため、担当者への個別の進捗確認が大幅に減りました。
- 会議時間の効率化: 会議では進捗報告に時間をかけず、ボードを見ながら課題解決や意思決定に集中できるようになりました。
- メンバー間の連携強化: 誰が何に困っているかが分かりやすくなり、メンバー同士が自然と助け合う関係が生まれました。
- タスクの抜け漏れ防止: 全タスクがリストアップされるため、重要なタスクの見落としや、重複作業を防ぐことができました。
導入のポイント・注意点
WeKanはオープンソースで強力なツールですが、導入にあたってはいくつか注意すべき点があります。
- 導入には技術的な知識が必要: WeKanは基本的にサーバーにインストールして利用するタイプのツールです。ウェブサーバーやデータベースの知識が必要となるため、ターゲット読者であるNPO職員や地域活動リーダーの方々だけでの導入は難しい場合があります。
- 導入を乗り越えるためのヒント:
- ITボランティアや専門家の協力を得る: 地域のITに詳しいボランティアや、NPO支援を行っているIT専門家の協力を得ることを検討してください。導入作業をサポートしてもらえれば、技術的なハードルを下げることができます。
- 比較的簡単な導入方法(Dockerなど)を検討する: WeKanはDockerという技術を使うことで、比較的容易に導入できる場合があります。技術的なサポートが得られる場合は、この方法を相談してみるのも良いでしょう。
- 代替サービスも視野に入れる: もしどうしてもセルフホストでの導入が難しい場合は、WeKanに似た機能を持つ無料または安価なクラウド型タスク管理ツール(Trello, Asana, Backlogなど。これらはオープンソースではありませんが、導入のハードルは低いです)も選択肢として検討できます。ただし、その場合はデータが外部のサービスに置かれることになる点を理解しておく必要があります。
- 導入後の運用ルールとメンバーへの浸透: ツールを導入しただけでは効果は得られません。どのようなルールでボードやカードを運用するのか(例:タスクに着手したら必ず「進行中」に移動させる、質問は必ずコメント機能を使うなど)を決め、メンバー全員にそのルールを共有し、日々の活動の中で継続的に利用を促すことが重要です。最初は戸惑うメンバーもいるかもしれませんが、慣れてくればその便利さを実感できるはずです。
まとめ・展望
オープンソースのタスク管理ツールWeKanは、地域活動におけるタスクの「見える化」と進捗共有を大きく改善する可能性を秘めています。導入には技術的なハードルが存在しますが、適切なサポートを得たり、導入方法を工夫したりすることで、そのメリットを享受することが可能です。
タスク管理が円滑になることで、地域活動はより効率的になり、メンバー間の連携も深まります。これにより、限られた時間と資源の中でも、より多くの成果を生み出すことができるでしょう。
今後、地域におけるオープンソース技術の活用がさらに広がり、多様なツールが地域活動の課題解決に貢献していくことを期待いたします。
補足:
記事中で触れたWeKanに関するさらに詳しい技術情報や導入手順については、以下の公式ドキュメントなどを参照してください(多くは英語での情報提供となります)。
- WeKan公式サイト: https://wekan.github.io/
- WeKan GitHubリポジトリ: https://github.com/wekan/wekan